巨大乳腺腫瘍ー後編

輸血はしたものの、出血は最小限に抑えたいところです。
順調に麻酔を導入し、ガス麻酔で維持します。
当院の看護師の一人は私自身よりこの業界歴は長いベテランで、うちに勤める前の病院では少なく見積もっても3,000件以上の麻酔管理を任されていた人物です。麻酔に関してはその看護師に全幅の信頼を寄せていますので、私自身は執刀に集中します。
大きく皮膚をきるため、体温が下がらないように保温装置も稼働させました。
メスで皮膚の切開を行い、電気メスで小さな出血を止めていきます。
しかし、これだけ大きくなった腫瘍なので予想より手こずります。ある程度皮膚切開したところで足の付け根に近いところの乳腺につながる大きな血管を縛ります。これで大きな出血は防げます。
約1時間ほどで女性の拳ほどの腫瘍が取り除かれました。
後は縫合です。幸い麻酔はとても安定していたので、術後に水がたまったりしないように細かく縫合していきます。
無事に手術が終わり、麻酔からも醒めました。
ふぅぅ。
その夜には少しですが、お肉のゆでたものを食べ、翌日には缶詰を食べ始めました。
経過も順調で3日後に退院となりました。
そして、手術から約2週間後。
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ほぼ問題なく抜糸が済みました。
手術前には循環が悪くなり、パンパンにむくんでいた右足も元通りになっていました。
術前のレントゲン検査では明らかな胸への転移などは見られませんでしたが、再発・転移の可能性は十分にあることを改めて飼い主さんにお伝えしました。
それでも、現在は食欲もあって(元々食欲は落ちていなかったのですが)、外にも行きたがるほど元気だそうです。体重も1割弱増えていました。
前回も書きましたが、犬の乳腺腫瘍の発生率は雌犬500匹に1匹。
この発生率が早期に避妊手術をすることでぐっと下がることが知られています。
発情前に手術をすると0.5%、つまり10万匹に1匹という確率まで下がります。
2回目の発情前までに手術をすると約2,000匹に1匹の確率です。
また、犬では乳腺腫瘍が発生すると50%は悪性です。
そういう私自身が乳腺腫瘍からの肺転移で犬を亡くしています。人で言えば
医者の無養生」と言うやつです。
500匹に1匹。これをどうとらえるかは人それぞれでしょう。
ただ、私自身の経験からも、飼った限りは少しでも病気の発生を予防できるのなら、という思いで避妊手術をお薦めする立場を取っています。